父はまだ駅まで送ってくれる

「よくわからないからお母さんが入る介護施設いくつか見繕ってよ」
先日、77歳の父からそんな依頼をされた。

私の母は認知症で介護施設に入る予定だ。
父はこういった情報をネットで調べるのはあまり上手ではない。
携帯での通話でさえ、いつも終話時に「あれ?切れないな?」と言っているくらいだ。

そんなこともあって父は私に聞いてきたが、正直私もわからない。
ただ私にはAIがある。だからAIに

「よくわからないからお母さんが入る介護施設いくつか見繕ってよ」

って聞いておいた。完全な伝書鳩です。
いくつか候補が出てきたので、ホームページを見ながら二つに絞った。

今日は、その二つの施設を父と見に行く日だった。
父とは現地集合。
「こんにちは。見学予約したものですが」と挨拶をし、応接室に案内してくれた。

「遠いところご足労ありがとうございます」などと話をしていると、
茶菓子を出してくれた。

ゴディバだ

ゴディバのクッキーだ。食べたい。けど手を出しちゃダメだよね?
などと葛藤しながら話を聞いた。

施設紹介のような通り一遍の説明が始まりそうになったタイミングで
「私として気になっているのは費用のこの部分なのですが……」
と気になっていることを父がずばっと相手に聞いていた。
そこからは父のターン。私は父が聞き漏らしたであろうところをちょっとだけ聞くくらい。

退室する直前に、施設の方が言った。
「ぜひお出ししたお菓子、お持ちになっていただけると助かります」

うまい言い方だと思った。
「よければ持っていってください」なら遠慮したかもしれない。
でも「助かります」と言われると、こちらは人助けとして持ち帰るしかない。

「ありがとうございます。いただいていきますね」
私は今度からこの言い回しを使おうと思った。

2件目は近くにある系列の施設。昼食をとってから行くかどうしますか?と聞かれたが、
「いいよな?すぐに行ってしまおう」
と間髪入れずに2件目に行くこととなった。

2件目も同様に応接室に案内してもらった。
さすが系列施設、情報がすでに共有されており、こちらの状況についてはすでに連携済みだ。
そして、父はまた最初に聞きたいことを聞いた。
「先ほどの施設と、こちらの施設だと居住者の方たちの憩いの場が見当たらなかったのですが、なにが違うんですか?」
「こちらは住宅型有料老人ホームで、あちらは介護付有料老人ホームなんですよ」
AIで調べて調査が甘かったことが露呈してしまった。ミスった。
「すみません、不勉強で」
「それであれば、こちらではなく、先ほどの施設の方が良さそうですね」
「これ以上の説明はしていただかなくても大丈夫です」

2件目の施設に入ってから出てくるまで20分くらいだったんじゃないだろうか。

施設から出てきて車に乗ると、父はすぐに一件目の施設に電話をかけた。

「先ほどお話を伺ったXXです。そちらにお願いしようと思いまして」

話が早すぎる。

そういえば昔、車を買うときもそうだった。
見に行ったその場で、もう買うことを決めていた。
私は横で「え、もう?」と思っていたけれど、父の中ではもう終わっていたのだと思う。

今日もそうだった。

母の入る施設が決まった。

「ランチ何食べる?」
「寿司?」
「はま寿司行ったことないから行ってみようか」

母の施設を決めたあと、父とはま寿司に行った。
そこまで気に入った様子ではなかった。

その後、駅まで送ってもらった。

母は介護施設に入る。
でも父は、今日もさっさと決めることを決めて、昼ごはんを食べて、私を駅まで送ってくれた。

私はそのことに、少し安心した。