スマホケースが8個必要な人生
娘は塾が終わると電話をかけてくる。
「セリアに寄っていい?」
塾の近くにはセリアがあって、そこを毎回巡回するのが彼女のルーティンになっています。買い物ではない。巡回です。昨日見ても、今日なにか異常があるかもしれない。
「なにをそんなに見てるの?」
「シール帳とリフィル! 当たり前じゃん」
当たり前と言われましても、こちとらセリアでまともに買い物をした記憶もないのです。
最近、娘はボンボンドロップシールに夢中です。
いや、正確に言うと、シールそのものではない。シール帳とリフィル。シールを分類し、飾り、持ち歩くための周辺環境に執心している。
もはやインフラ整備が趣味になっている。
100円から300円くらいでシール帳やリフィルが買える。安い。安いはずなのですが、私の中の小学生は「それ、うまい棒10本分では?」と騒いでいる。
我々の時代の駄菓子屋は、10円や20円を握りしめて行く場所だったような気がする。娘はもう少し大きな単位で、お年玉をセリアに注ぎ込んでいく。
ボンボンドロップシールの熱もそろそろ落ち着いたようにみえた。これでセリア巡回も一区切りついたかなと安堵していたら、また電話がかかってきた。
「セリアに寄っていい?」
「え、また? なにを見るの?」
「スマホケース! 当たり前じゃん」
いや、当たり前と言われましても。
シール帳の次はスマホケースらしい。娘はお年玉を使って自分のiPhoneを購入。その携帯ケースを作るのだという。ケースなんてとにかく薄い透明のものをつけておけばいいのではないか。違うらしい。娘は自作するらしい。
しばらくすると、セリアにいる娘から再度電話がかかってきた。
「工作に使いたいから買っていい?」
これは賢い。
我が家では、工作に使うものなら、高すぎなければ親が出してもいいというルールになっている。娘はそこをちゃんと突いてくる。欲望を「工作」に変換する。なかなか高度な交渉術です。
数百円でデコレーションの材料を買ってきて、スマホケースを飾ったり、なにかを作ったりしている。最初はぐちゃぐちゃになるんじゃないかと遠巻きに見ていたのだけれど、意外にセンスも良くて、バカにできない。評判も上々で友達のお母さんにまでプレゼントしているらしい。
最近作りすぎているように感じたので何個スマホケース持ってるのかを聞いてみた。
「8個」
いや、やりすぎでしょ!工作するなら出してあげるとは言ったけどさ。
とはいえ、「工作に使う」と言われると弱い。
親の財布は、教育と創作という言葉にめっぽう弱い。
私の時代なら、駄菓子屋で水に溶かすコーラ粉を買って、それだけでかなり満足していた。
娘はセリアで透明なスマホケースを買い、シールを貼り、パーツを並べ、気づけば8個持っている。
同じ子どものワクワクでも、ずいぶん形が違う。
そして私は今も、スマホケースが8個必要な人生について、まだ何もわかっていない。