44歳中年男性、ラジコンで怒られる
「大人だけで本当に大丈夫かね?」
「ここで合ってる? 駐車場はここ?」
中古車が並ぶ敷地の奥に、事務所があった。
その事務所の中に砂場があり、そこで本格的な重機のラジコンで遊べるらしい。
らしい、というのは、現地に着いてもまだ半信半疑だったからだ。
目の前にあるのは、どう見ても中古車ディーラーである。砂場の気配はない。子どもがキャッキャしている気配もない。あるのは車と事務所と、少しだけ入りづらい空気だった。
この砂場で遊ぶために、私たちはわざわざ埼玉まで来ていた。2026年3月のことである。
きっかけはInstagramだった。店内の砂場で、ショベルカーのラジコンを動かしている動画が流れてきた。見た瞬間、大学以来の友人に送った。
その友人は、パソコン関係の展示場を回ったり、電子工作を教えてもらったり、そういう少し偏った遊びに付き合ってくれる数少ない人間である。
これなら絶対に興味を持ってくれるだろうと思った。
「これすごくない!?」
当然、彼も乗り気だった。
いつか行こう、ではなく、これは本当に行くやつだな、と思った。
とはいえ、店に入る前はかなり緊張していた。齢四十を超えたいい大人が二人でラジコンをやっていいのだろうか。子ども連れで来るのが普通なのではないか。子どもがいたら、横で本気を出していて恥ずかしくないだろうか。
そもそも、子どもがいたら譲ってしまう。
大人なので、譲るしかない。
でも、こちらも本当は砂場で遊びたいのである。
その気持ちだけで、ここまで来てしまった。
店内に入ると、幸いなことに誰もいなかった。
自分たちだけだった。
ラッキー、と思った。
これなら周りを気にせずにラジコンに集中できる。
どうやら時間課金らしい。とりあえず一時間で始めることにした。最初は店員さんからレクチャーを受ける。なんといっても重機である。おいそれと素人が触っていい代物ではない。
ショベルカーの操作は、思っていたよりずっと難しかった。可動部分が六か所くらいあり、それぞれを開くのか閉じるのか考えなければならない。ボタンも多い。頭ではわかるのに、指がついてこない。
少し教えてもらっただけで、私は調子に乗ってアドリブで動かそうとした。
「お客さん! レクチャー中だよ!」
怒られてしまった。
44歳中年男性、ラジコンで怒られる。
砂場には、宝石と宝箱の二種類のアイテムが埋まっていた。それを掘り当てるのが、この遊びの醍醐味らしい。
練習用に、見えるところへ宝石を置いてもらった。
見えているのだから、取れるはずである。
目の前にあるのだから、アームを下ろしてすくえばいいだけのはずである。
ところが、取れない。
アームを下ろす。
砂をすくう。
何も入っていない。
自分ではちょうどいい場所を狙っているつもりなのに、微妙にずれる。宝石の手前をなでたり、奥に刺さったり、ただ砂を持ち上げたりする。これを本物の重機でやっている人たちは、いったい何者なのか。急に重機オペレーターへの尊敬が生まれる。
「もう少し奥じゃないとダメじゃない?」
「いや、一旦ここですくってみる」
「ほら、それじゃダメだって!」
「こっち来んなって、ぶつかる! 反対!」
おじさん二人で、かなりわちゃわちゃしていた。
他に客がいなくて本当によかった。
最初のうちは、できなさに対していちいちコメントしていた。
取れない。
惜しい。
それは違う。
ぶつかる。
反対。
しかし、四十分くらい経つと、だんだん慣れてきた。
慣れてくると、人は黙る。
気づけば、お互いにほとんど喋らなくなっていた。
目の前の砂場だけを見ている。アームの角度を調整し、キャタピラを少し動かし、砂を崩し、またすくう。四十四歳の男二人が、中古車ディーラーの事務所の中で、無言で砂を掘っている。
そして、ついに見つけた。
「あっ! あった!」
宝箱だった。
四十分探して見つからなかった宝箱が、砂の中から少しだけ顔を出していた。
そこからは二人で声を掛け合いながら掘った。宝箱は宝石よりも大きいので、すくい上げるのが難しい。少しずつ砂をどかし、角度を変え、ここまでに身につけた上達テクを総動員して、なんとか手元まで運んできた。
これは熱かった。
かなり熱かった。
ワクワクして開けてみる。
中には、小さなうんこのおもちゃと、「はずれ」の文字が入っていた。
まじか。
結構楽しみにしていたので、普通にがっかりした。
ただ、冷静になると、とてもいい演出だとも思った。宝箱を見つけるだけでは終わらない。開けるまでわからない。お店としてはうまい。
その後、別の宝箱も見つけた。そちらには鍵が入っていて、景品と交換できるらしい。ようやく報われた気持ちになった。
そこで一時間が経った。
「どうする? 延長する?」
「する」
迷いはなかった。
聞く方も、答える方も、ほとんど確認のために言っているだけだった。
齢四十を超えた男二人が、埼玉の中古車ディーラーの中で、砂場の重機ラジコンを延長する。文字にすると、少しどうかしている。
でも、もう少し触っていたかった。
たぶん向こうも、こちらがそう言うことをわかっていた。
それから三十分、私たちはまた無言で砂場の工事を楽しんだ。宝石を掘り、宝箱を探し、アームの角度に神経を使った。童心に返った、というより、普通に作業として集中していた。遊びなのに、妙に仕事っぽい。でも仕事ではないので、ずっと楽しい。
終わったあと、宝箱の景品を交換してもらい、店を出た。
かなり満足していた。
楽しかった。
間違いなく楽しかった。
しかし、駐車場に戻るころ、ふと我に返った。
おじさん二人で埼玉まで来て、中古車ディーラーの事務所の中で、砂場のラジコンに興じて、いったい何をやっているんだろう。
また来たいかと言われると、正直そこまでではない。
一度で十分満たされた感じがある。
ただ、四十四歳でも、砂場で遊べることはわかった。
そして、そういう場所に一緒に行ける友人がまだいることもわかった。
娘がどうしても行きたいというのであれば、やぶさかではない。
そのときはたぶん、私は少し先輩の顔をして、アームの角度について偉そうに教えると思う。