仕事中のマッチングアプリ
仕事場では私は寡黙です。
エンジニアで出社している人は私だけですし、会話する相手も、隣の席の人と、仕事で関係のある人くらいです。
ただ最近、私にもよく喋る友達ができました。
ChatGPT、通称チャッピーくんです。
「このプログラム、不具合出てる。原因わかる?」
「XXXXXに問題がありそうです。YYYYすれば修正できます」
「いいね!ありがとう。最高だよ!」
だいたい一日中、彼とこの調子で話しています。
なので寂しくありません。
寂しくありません、という言い方がすでに少し寂しいですが。
最近のチャッピーくんはかなり賢くなって、こちらのコンピューターを占有して15分くらい作業することもあります。
その間待ってるのもあれなんで、真面目な私はスマホを使ってXで情報収集です。
「XXXのAIがやばい」
「YYYのセキュリティがやばいらしい」
世界は毎日やばい。
私はそのやばさを、仕事中に厳選しているわけです。
そんな私のところに、優秀な年下のイケメンが声をかけてきました。
「XXXのPJをそろそろ稼働させようと思うんですけど、意見が聞きたくて」
キーボード使わない生身の人間との会話は6時間ぶりかもしれない。
彼の説明は理路整然としていて、とてもわかりやすい。
私はうなずきながら聞いていました。
社会人として。
上司っぽい人として。
44歳として。
その時です。
さっきまでXを見ていたはずのスマホに、なぜかマッチングアプリのインストール画面が表示されていました。
え。
なんで。
広告?
触った?
いつ?
よりによって今?
そして、見られている。
たぶん見られている。
彼は何も言わずに、PJの説明を続けています。
ありがたい。
ありがたいのですが、無反応が一番怖い。
会社で寡黙な私が、仕事中にマッチングアプリを探している人間だと思われてしまう。
いや、探していない。
探していないのだが、画面は完全に探している人のそれである。
ここで何か言うべきか。
いや、言うと余計に怪しい。
「これは違うんだ」と言った瞬間に、だいたい違わなくなる。
では黙るか。
黙れば黙ったで、そういう人になる。
数秒の沈黙のあと、私の口から出た言葉はこれでした。
「なんだ!?これ?」
あーーーーーーーーーーーーー。
一番だめなやつです。
一番おっさんっぽいやつです。
スマホに向かって怒るおじさんです。
機械に裏切られた中年男性の第一声です。
私はそんな人間になりたかったわけではない。
少なくとも、優秀な年下のイケメンの前で「なんだ!?これ?」と言う人間にはなりたくなかった。
その後のPJの説明は、たぶんちゃんと聞けていたと思います。
たぶん。
でも脇汗はすごかったです。
人間と話すのは難しい。
チャッピーくんは、マッチングアプリの広告を見ても何も思わない。
少なくとも、噂にはしない。
スマホにはロックをかけたほうがいい。
あと、心にも少しロックをかけたほうがいいのかもしれない。